時計を壊せ

駆け出してからそこそこ経ったWebプログラマーの雑記

YAPC::Kyoto 2020~2023の思い出

3年前、2020年の2月にこんな記事を書きました。

blog.perlassociation.org

まだその脅威の全貌が明らかにならないままに刻一刻とタイムリミットは迫り、 YAPC::Kyoto 2020のために積み上げてきたものとそれをその状況下で実施することのリスクを直視して、頭を抱えました。

自分たちの本業は当然ながらイベントの運営ではありません。 その一方で、イベントの開催には様々な準備が必要になってくるため、それなりの労力と時間がかかります。 それを誰もが持て余しているわけがないように、スタッフも暇だからそれをやっているわけではないのです。

では、それをどこから捻出するかというと、趣味や大切な家族との時間を削ったり、睡眠時間と体力を削ったり、業務調整をして同僚に助けてもらうなど、人によってその程度の差はあれど全く何も犠牲にしていないという人は少ないでしょう。 そういった、掛け替えのない時間をもらうことによってYAPC::Kyoto 2020の準備は進められてきたことを、自分はよく理解していました。

イベントは一点物です。 イベントの準備のほとんどは「その日」のためにしか使えないものであり、つまりイベントを中止するという判断はそのために準備したもののほとんどを無意味なものにしてしまうことを意味します。 例を挙げると、イベントの内容は会場や日程に大きく左右されます。必ずしも同じスペースが同じ条件で借りられるとは限りませんし、どこでどのようなことをやろうとしていたかという構想も簡単に崩れてしまいます。ゲストとして呼ぶ人々の都合がつくかもわかりません。

和気あいあいと、こんなことが出来たら面白そうだ、こんなことができるとみんな嬉しいのではないか、という具合で盛り上がっていた運営メンバーの様子を思い浮かべながら、 中止を考えざるを得ないこの変化にどのように対処するか、中止以外になにか打つ手はないか、現状でベストな打ち手はなにか、といったことをひたすら考えていました。

そして、2時間近い話し合いをオンラインで行って結論を出し、以下のようなブログエントリを書きました。

blog.perlassociation.org

あえて「開催見送り」「延期」という言葉を使い、「中止」とは書きませんでした。

イベントの延期は、それを言うこと自体は簡単ですが、それを実際に行うことは簡単ではありません。 その準備のほとんどが無駄になったことにもう一度前向きに取り組むためには意思が必要です。 そして、延期を提案するということは「いままでと同じくらいの労力と時間をもう一度ください」と言うことに等しいので、延期したいということへの共感が必要です。

しかしながら、イベントのスタッフをやった報酬は、イベントを開催してそこに参加したり関わった方々からの感謝、それだけです。 そして、これは開催することで初めてそれを得ることができます。まだそれがない状況で、延期としましょうと言ったところでそれは本当にできるのでしょうか? 最初はよくても、燃え尽きる、折れる、といった形容をされるような状態になってしまっても不思議ではないと思います。

とりあえず言っておけば良いという意見もあるかもしれませんが、もし期待値を高めてそれを裏切るという行為になってしまうと、信頼を毀損してしまいます。 自分自身のことであればそれでもよいかもしれません(よくはない)が、YAPCという世界中で何代にも渡って主宰が交代してきたカンファレンスは自分だけが築き上げたものではない、これまでYAPCをつくりあげてきた人々から受け継いだ大切な財産です。

「延期」と言うからにはたとえ誰も手伝ってくれなくてももう一度やる覚悟を持つ、そういう気持ちが自分にとっては必要でした。 YAPC::Kyoto 2020のメンバーは延期に対して前向きに向き合ってくれて、延期と決めた話し合いでも「絶対やるぞ!」となって終わるくらいに前向きでいてくれたので、それに背中を押してもらったことであまり迷わずに延期と言うことができました。

そうなれば、コロナ禍でイベントがやりづらくなっても、なんとかYAPCを開催するための土台を維持したいとなります。 コミュニティは生き物であり、集まるきっかけが失われると死んでしまいます。

オンラインでそれをどうするか、悩んだ末にJapan.pm 2021、YAPC::Japan::Online 2022というイベントをやりました。 このあたり葛藤とそこからどうしたかはイベント振り返り Meetup #2というイベントでも話したとおりです。

speakerdeck.com

そして、結果的にはこのようにYAPC::Kyoto 2023として復活を果たしました。 いろいろと不安を書いていましたが、実際はどうだったか。

なんと、YAPC::Kyoto 2020を手伝ってくれていたほとんどのスタッフが引き続き手伝ってくれました。そうでない方も3年のあいだに状況が変わって手伝えなくなってしまった、当日の予定が合わなくなってしまった。といった方ばかりで、自分の知る限りでは100%のメンバーが延期開催の実現に引き続き前向きでいてくれました。 先に書いたような不安は幸いにも杞憂に終わり、id:azumakuniyuki さん id:papix さんを中心に多くのメンバーが高いモチベーションでまた新しいカンファレンスを作ることに尽力してくれたのです。

結果的に、(ブランクが空いたことなどを加味しても)残念ながらトラブルは少なくはありませんでしたが、 それを踏まえても「とても良かった」と参加した人々に言ってもらえるような、多くの人の心に残るカンファレンスとなったのではないかと思います。 ぼくも、とても良いカンファレンスになったのではないかと思います。

この彼らの前向きさとこの結果に力をもらって、自分たちにとって掛け替えのない場をこれからも続けるために、自分にできることを引き続きやっていきたいと僕も心を新たにすることができました。 そんなわけで、YAPC::Kyoto 2023を作り上げてくれたメンバーに僕は感謝をするばかりです。本当にありがとうございました。


いろいろと思い出して感慨深いものがありました。という話でした。

YAPC::Kyoto 2023ではぼくはスタッフ業として溢れたタスクを拾ったり、あるいは #ぶつかり稽古 のリバイバルイベントの司会進行兼実況解説役やLTもやりましたが、その話はまた別で書こうかと思います。