時計を壊せ

駆け出してからそこそこ経ったWebプログラマーの雑記

技術カンファレンスのプロポーザル採択のときに僕が考えていること

コミュニティ主体の技術カンファレンスをいくつかオーガナイズしてきた立場の人として、プロポーザルの採択に関わることがこれまで何度かありました。

何度か繰り返していくうちに、自分はこういうことを考えて採択するか決めているな〜というのが年々言語化できつつあるので、そろそろ頭のなかをdumpしてみようかという気持ちになってきました。 数年して考えが変わるかもしれないし、今の時点ではこんな感じのことを考えていたという記録になります。

技術カンファレンスと銘打ってますが、自分の場合は基本全部YAPC::Japanシリーズのカンファレンスの経験がベースになっています。 他のカンファレンスでは事情が異なることもあるとは思いますが、それでも参考になる部分はあるかもしれません。

なお、この記事はあくまで私的な考えの表明でそれ以上でも以下でもないものです。 他の誰かの考え方を肯定したり否定したりといった意図はありませんし、過去の回の採択の基準は実はこういうものでしたということを説明するに足るものでもありません。

これだけが正しいなどと考えているものではなく、自分にとっての現時点での最適解はこれだと思う。というだけの話です。

もしかしたら言語化が下手で誤解を招くとか誤字脱字があるとか誤変換があるとかそういう側面はあるかもしれませんが、あくまでも書いたことが自分の考えのすべてとして受け取ってほしいです。

なお、先日結果が告知されたYAPC::Fukuoka 2025、またJPAとして主催に関わった大吉祥寺.pm 2025については自分はプロポーザルの採択に関わっておりません。 直近の採択結果についてその評価基準を説明するものではないことも明記しておきます。

fortee.jp

プロポーザルの採択はカンファレンスのキモ

いま、技術カンファレンスはあまりにもたくさん開催されています。 技術カンファレンス同士で日程が重複してしまうことも稀にありますし、技術カンファレンス以外のイベントと重複してしまうことは全く珍しくありません。

そんな数多の技術カンファレンスのなかで「これは面白かったからまた行こう」と思うのは、そのカンファレンスでの体験が面白かったからなのだろうと思います。 「これは面白かった」と思う要因はいろいろあると思いますが、究極的にはそのカンファレンスが持つイメージが大事になってくるのかなと思います。

では、その技術カンファレンスのイメージをつくるものは何でしょうか?

ぼくは、採択されるプロポーザルと、それにたいする聴衆のリアクションによってカンファレンスのイメージがつくられるのだと思っています。そのカンファレンスの文化の根幹ともいえるでしょう。

すると、応募してもらったプロポーザルを限りある枠に当てはめる採択作業はいわばそのカンファレンスでの体験を設計することに近しく、そのカンファレンスのキモといえるのではないでしょうか。

無限にも思える組み合わせから最適解を選ぶことは大変ですが、そのカンファレンスの「面白さ」を考えるうえで非常に大切な作業になるため最も重要な仕事の一つ、キモといえるでしょう。

オーガナイザーが好きに決める

個人的には、カンファレンスのオーガナイザーが好きにしたら良いと考えています。 自分がオーガナイザーのときは自分が良いと思うように採択したし、他の人がオーガナイザーのときは干渉すぎないようにしたいくらいにまで思っています。

こんなこというと中には「それは職権乱用のための詭弁では?」と思うひとがいるかもしれませんがちゃんと理由があるので説明します。

カンファレンスの軸に縛られすぎないほうがよい

たとえばカンファレンスの方向性を意識しすぎてしまった場合、トピックが絞られすぎてそのトークのバリエーションからくる面白さが損なわれうる場合があります。

カンファレンスの方向性はあくまでも「軸」であることを念頭に置く必要があります。その「軸」から離れすぎてもいけないですがまとまりすぎても面白くないことが多いでしょう。 似たような話ばかり聞くことになりうるからです。

少なくとも個人的には、聞けるトピックにある程度の幅があるカンファレンスのほうが行ってよかったと感じることが多いです。 要はバランス。という話にはなってしまうのですが、個人的な感覚でいえば頭の片隅においておき最後に全体的なバランスを見るときに参考にする。というくらいでちょうどよいと思います。

客観的な指標に引っ張られすぎないほうがよい

カンファレンスとしての方向性やこういったトークが聞きたいという具体的な要求、カンファレンスの運営チームとしての意向やコミュニティからの人気など、参考になりやすくかつ客観的な指標がたくさんあります。

しかし、それらに引っ張られすぎてしまうとどうなるでしょうか? 自分個人の感覚ですが、「わかりやすい」安易なトークにまとまってしまいがちだと思っています。

要求と見比べてマッチしていると見なしやすいあるいは内外から評価が集まるということは、そのプロポーザルから魅力を感じる人が多いことを示します。

しかし、それは必ずしもそのトークが面白いからとは限りません。あくまでもその面白さが伝わりやすいからであるということに注意する必要があります。

無論、それはとても良いことであることに疑う余地はありません。 ただ、それがすべてではなく、あくまでもそれは1つの要素にすぎないことを忘れるべきではないと思うのです。

たとえば、もともと特に興味がなかったけどただ部屋を移動するのが面倒でそのまま聴いたトークが実際に聴いてみたらとても面白かった、といった経験はありませんか? 中にはそのような、わかりやすさはないけど面白いようなトークもあります。CfPの要求やテーマにもあまりマッチせず一見して魅力が伝わりづらいが、これ聴いたら絶対に面白いだろうなーというやつです。

一見して人気のないプロポーザルから隠れた魅力を発見し、それをコミュニティに伝えることはカンファレンスのオーガナイザーをやる醍醐味の1つだと思います。

そのためには、客観的な指標に引っ張られすぎないようにして、あくまでも参考程度に見ることが望ましいと思います。

投票結果はコミュニティからの人気の高さを表すとは限らない

投票結果、具体的にはXの投票機能やforteeのスターのようなものは、コミュニティからの人気を測るうえで大変便利です。 投票が集まっているといかにも良いプロポーザルに思えてきます。

では、どのようなときに投票しようと思うのでしょうか?

投票するモチベーションとしてはおおまか以下の2つに大別出来ると思います:

  • プロポーザルが魅力的に見える
  • スピーカーを応援している*1

後者を理由に投票することは適切でないと考える人もいるかもしれませんが、実際にはおそらく存在するでしょう。

投票では数を集計しているだけなのでその理由は明確になりません。 したがって、それが本当に魅力的に見えたから投票が集まっているのか、それともスピーカーに人気があるので投票が集まっているのか、といった投票が集まった理由は常に不明瞭です。

また、コミュニティに参加する人の集合とそのプロポーザルに投票する人の集合は同じではないことに注意する必要があります。 したがって、仮に「プロポーザルが魅力的に見える」ひとだけが投票していたとしても、誰が投票したのかが明らかでない場合はそれがコミュニティに対して人気が高いと評価することは難しいでしょう。

先述した「わかりやすさ」が足りないと評価を集めづらい問題はこの投票にも同様にことがいえます。

全く無意味とまでは言いませんが、投票結果が強く影響するような採択はコミュニティにとって良い結果となるとは言い切れないとおもいます。

主観的な評価を重視する

このように、客観的な評価のように見えるものあるいは明文化された評価軸は、そこだけで評価してしまうとそのカンファレンスの面白さを100%引き出すことが出来ないと思います。

では、どうすると良いのか。カンファレンスのオーガナイザーが好きに決めるのが結果的に一番良いものになると思っています。主観的な評価を重視するという考え方です。

カンファレンスのオーガナイザーをやっているけど、そのカンファレンスの具体的なビジョンがない。ということはあまりないと思います。 そのビジョンはこれまでそのカンファレンス、コミュニティに参加するなかで培われたものでしょう。それはコミュニティの集合知をそのなかに持っているとみなしてもいいとおもうのです。

「これはみんな聞きたいだろう」「これは人気は出ないだろうけどたぶんウケがいいだろう」といった主観的な評価を重視して、客観的な評価のように見えるもの。あるいは明文化された評価軸を参考に、軸がブレていないか自らの評価を客観視すればおおよそ間違った結果にならないでしょう。

何より、オーガナイザーが主観的な評価で採択するということは、その個性がカンファレンスに現れることになるでしょう。それがカンファレンスの持つ「色」となります。 採択されたプロポーザルやタイムテーブルから「こんなカンファレンスなんだ」というのがわかりやすいと、そのカンファレンスに参加するかどうかの判断がしやすくなります。

そして、その「色」が好きで集まった人々がその場の雰囲気を作り、その場の雰囲気が好きなので人が人を呼ぶ。という好循環が生まれるところまでいけば理想的です。

ただ、やはり注意するべきなのは、客観視に流されすぎてはいけないということです。

主観的になりすぎるぶんにはそれはそれで個性と呼べるでしょう。 しかし、客観的になりすぎて面白みのない無難な結果に落ち着いてしまうとそれは八方美人であり、コミュニティにその魅力を感じ取ってもらうことは難しいでしょう。

主観的な評価を重視するのは勇気がいることで、また他責にできる余地がないぶん精神的にストレスもかかりますが、コミュニティにとって良い結果を出すためには最良の方法だと思います。

もし、どうしても結果が気に入らないという人が現れたら、オーガナイザーをその人と交代するのも1つの手段です。

魅力的なタイムテーブルを組むことが目的

公募のトークを採択するということはそれ自体は目的ではなく、魅力的なタイムテーブルを組む手段であり、コミュニティにとって魅力的なタイムテーブルを組むことが目的です。

そのためには、採択結果を出すまえにタイムテーブルを組むことは非常に重要です。 素晴らしいプロポーザルがたくさん集まっている場合、明白な優劣を見出すことが難しいことはよくあります。

しかし、タイムテーブルの流れを組んでみると、この流れだったらこのトークのほうが良いな。と判断しやすくなる場合があります。

この話を聴いたあと同じ部屋でこういう話を聞けると良い。みたいな感じです。

トラック別に興味が違う人が分散するように配置することも重要です。 どう配置してもこのトークに一番人が持っていかれてしまいそう。となった場合、 もともと採択するつもりがなかったトークを別のトラックに当てはめてみると興味を持ちそうな層が別れていい感じになることがあります。

プロポーザルを採択するうえでは主観的に順位をつけることが重要なのではなく、魅力的なタイムテーブルを組むために最適な選択をすることが重要だと思います。

まとめ

プロポーザルの採択はカンファレンスのキモで、そのためにはオーガナイザーが好きに決めるのが望ましいという考えを説明しました。 客観的な見方だけに頼らず主観的な評価を重視することで、適度にバランスが良くそのカンファレンスらしい色のある結果を出すことが出来ると思います。

また、そのためには魅力的なタイムテーブルを組むために最適な選択をすることを意識することが重要だと思います。 プロポーザルに順位をつけてそれをタイムテーブルに当てはめるのではなく、最高のタイムテーブルを作るためにどのプロポーザルを選択するか決めるという目的を見失わないことが大切だと考えています。

考え方が相容れない人もいるとおもいます。YAPCないしPerlコミュニティの方々にも相容れない考えを持つ方はいらっしゃるでしょう。 それもそれで良いのだと思います。もとより明白な正解があるとは思っておらず、自分がやるならこう。というだけなので、そうなんだ〜くらいで流してもらえると良いかと思います。

そんなふうに流すことは出来ない!という強い思いを持つ方は、カンファレンスオーガナイザーに向いているでしょう。ぜひあなたの理想のカンファレンスを立ち上げて、そこに参加させてください。

プロポーザルを出す人にとっては、じゃあ結局なにに合わせたらいいんだ!となるかもしれませんが、そのコミュニティにとって受け入れられやすそうなものを実際に参加した経験や過去の傾向から噛み砕けば良いと思います。 採択されなかったとしてもとりあえず参加してみて、そのカンファレンスやコミュニティの良さや自分との相性を感じれば自ずとどんなプロポーザルを出すべきかが見えてくるはずです。

最後に繰り返しになりますが、これはあくまでも一個人の考えでしかないもので、YAPC::Japan系カンファレンスやPerlコミュニティの考え方を代表するものではありません。 数年後の自分が当時の自分の考え方を思い出したり、誰かの参考になったりでもしたら書いた価値は多少はあったのかなと思います。

*1:純粋にその人のファンである場合もあれば、同僚だから、友人だから、といった場合もあると思います